平成18年度文部科学省 委託事業

「幼少期における自然体験活動の必要性と効果について考える」シンポジウム


基調講演(1)

 幼少期における自然体験活動の必要性と効果について
飯田 稔

飯田 稔  皆さん、こんにちは。  最近は、何か年をとりますと目も見づらくなりますし、耳も聞こえなくなってまいりますし、足元もふらつくし、思っていることが出てこなかったりとか、忘れていたりとか、まさに末期的な症状にあります。
こういう時期にこそ、『幼少期』の自然体験が大事だな!と、自分の事よりもこっちの方を一生懸命やらなければいけないな、と思います。

私が今日お話しする内容は、自然体験というのは非常に広いんですけれど、主としてキャンプを中心にして、幼児の体験がどんな意味を持っているのか?についてお話ししていきたいと思います。

 私は、1969年(昭和44年)になりますけれど、ほぼ40年前ですね−私はまだ助手でしたが、その時に初めて3泊4日の幼児(5歳児)のキャンプを、参加者が39名、スタッフが18名で、長野県の北軽井沢にあった日本看護協会のキャンプ場で実施いたしました。
 そのきっかけになりましたのは、私の上司であった近藤充夫先生です。この方は幼児体育の先駆者で、その後東京教育大学から学芸大学に行きまして、東京学芸大学付属幼稚園の園長もなさっています。その先生が講師で私がその下の助手の時に、「飯田君、私の専門分野と君の専門分野でプロジェクトができないものかな?」と聞かれ、その時私が初めて「それでは幼児キャンプに取り組んでみませんか?」というお話しをしました。

 今でも、幼児がキャンプに参加するという、特に何日にも渡ってというのは、身体的にも情緒的にも未熟なので無理なのではないか?と思われてます。これはアメリカの文献などを見ても、大体10歳(小学校4年生)ぐらいからです。日本でも小学校5〜6年生から、というのが一般的だと思います。
 敢えてそれに挑戦してみようと。そして幼児が自分の親元を離れて4日間、本当にキャンプ生活に適応して生活できるのか?そういう一大実験を行ったわけです。そしてその翌年には、幼児で参加した子どもたちが小学1年生になり、「是非1年生にもやって欲しい」という事で翌年からは1年生、さらに2年生3年生という事で、現在は高校生まで500家族が会員として所属しております。

 1975年(昭和50年)、この時から3泊4日から、もう一日長い方が効果があるという事で4泊5日になりました。それから1985年から場所を宮城県の花山村−「花山少年自然の家」がございますけれど、その近くに土地を求めて、そこにキャンプ場を作り、現在までそこを発信基地として、キャンプ生活をやっております。

基調講演  今日は、口で喋るとなかなかこういう活動は理解しにくいということもありますので、まずは20分程度ビデオをご覧になっていただいて「飯田がどんな事をやっているのか?」それから「子どもたちは自然体験にどの様に反応をしているのか?」といった様子をご覧になっていただきたいと思います。

 これは1988年(昭和63年)、もう20年前になりますけれど、NHKの「お母さんの勉強室」で放映されたものです。



 幼児キャンプの一端をご紹介いたしました。
私たちは幼児キャンプについて、いろんな調査等を行ってきております。そのいくつかをこれからご説明したいと思います。

 まず、5歳児の母親がキャンプに実際に子どもを送る場合に、どの様な効果とか期待というのを持っているのか?
これは参加した96人の母親に聞いております。1番は「集団の中で友達とうまくやっていく」あるいは「新しい友達を作る」。こうした友達関係を挙げているのが41.3%と、最も高い比率でした。2番目は「自立心をつけたい」あるいは「忍耐力・我慢強さを身につけさせる」。心理とか精神的な強さが30.5%。3番目には健康・体力づくり 「健康で丈夫な子になる様に」が12.5%。それから自然に対する興味・関心 「自然に興味を持って欲しい、好きになって欲しい」あるいは「自然の大切さを学び取って欲しい」。この様な4つの期待あるいは効果を挙げています。その中でも『友達関係』というのが一番高い比率であったという事です。

薪割り
  写真はイメージです
 逆に不安もまた持っております。どんな内容かと言いますと、第1位は「荷物が大きすぎてひとりでは歩けない」。先程、上野駅へ集まってくる時の場面がありましたけれど、大体6kgから7kg−子どもたちの体重が17〜8kgですね、平均しますと−ほぼ体重の3分の1という事で、初めての経験になります。それから「登山で9km歩く」それから「雨に濡れたり、汗をかいて風邪を引いたりする」「疲れる」こういった様な、健康とか体力に対する不安というのが、参加者の母親全体の50%以上に挙がっておりました。
 それから2番目は生活習慣とか行動面ですね。これは「ひとりで自分の荷物を整理整頓できない」あるいは「親と離れて生活をする」「寝袋で、テントで泊まる」−こういった様な、生活、あるいは行動面について30%。それから3つ目は子供の恐怖心ですね。「夜トイレへ行く」とか、あるいは「暗闇を怖がるのではないか?」 この様な3つの不安というのが大きなものでした。

 では実際に親がどれ位の不安を持っているか?『状態不安』という心理テストがございまして、これは、ある特定の時期に、どれ位の緊張感とかイライラ・心配があり、逆に平穏さ・落ち着き・安心感・満足感がないかを測る事によって、その時々の不安を調査する方法がございます。これはアメリカのスピルバーガーという人が作成したもので、日本語版にもなっています。
 それによりますと、キャンプの3週間前−普通の日には30.8ポイント。ところが、これが前日になりますと、39.6ポイントと、ほぼ10ポイントの差がついている。キャンプの直前には母親は高い不安を持っている、と言えます。ですから、昔から言われている様に「かわいい子には旅をさせよ」という心境で子どもをキャンプに出しているのではないか、と推測されます。
 それから、登山のことで「9km歩くのに不安がある」というのが出てきましたが、実際、親に「子どもがどれ位歩けると思いますか?」という質問を投げかけています。その結果、1時間−約2km が50%、半分ですね。その倍の2時間−4km が35%。6km−3時間以上 が5%。そして残り10%が「わからない」という事で、ほぼ半分の親が「1時間、2km」という予想をしています。
 しかしながら、実際には私たちのキャンプでは、場所によって違いますけれど、幼児に7km〜10kmの登山を行っております。今まで参加した約1,200人の子どもたちの中で、落伍者はひとりもいないんです。全員がこれをやり遂げています。
 今言いました、健康・体力あるいは生活習慣・行動、そして恐怖心、これらが原因で子どもに手を焼いたり、あるいはうちへ帰した子どもは、ひとりもいませんでした。

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